真夜中過ぎの散歩。 真夏の海岸沿いの道では、若い恋人達がお互いに愛を囁き合ったりしている。 多分、彼らの目の先にあるものは未来。 …じゃあ、私達が見てるものは、何なのかしら…。 多分、これが最後の逢瀬。 それは、二人とも感じている。 足の下で、冷えた砂がしゃり、と啼いた。 二人の向かう先は、遠くに見える宿。 最後の夜を迎えるのが怖いのか、彼女は彼の腕にしがみつく。 彼も、空いている手で彼女の小さな頭を撫でた。 ほんの些細な予感は、明日には現実になっているのかもしれない。 だけど、二人は口に出さない。 たどり着いたのは、少しだけ丘を登ったところにある、まだ新しそうなホテル。 玄関をくぐると、涼しげな風鈴の音が二人を向かえた。 フロントで先ほど預けた鍵を受け取り、エレベーターへ向かう。 午前二時という時間のせいか、二人のほかに客はおらず、案外すんなり部屋へ戻れた。 彼女の目は、ただ彼の元へ。 そんな彼女の視線に気づいてるのか、彼の鍵を回す手は少し震えていた。 …この部屋で、私達は最後の夜を過ごす… 考えたくないことばかり、なぜ頭を通り過ぎるのだろう。 …がちゃ。 音のない廊下に、扉の開く音がゆっくりと響く。 部屋に吸い込まれて行く彼の姿が、彼女にはまるで映画のスローモーションのように感じられた。 部屋の電気が自動につき、二人は改めてお互いの顔を眺めた。 大好きな顔。 大好きだった顔。 ピリオドの足音が、彼方で聞こえた気がした。 二人はシャワーで砂を洗い流したあと、備えついてある有線をかけた。 夏らしい、誰かの曲が部屋を支配する。 終わりのなさそうな、愛を唄った歌。 そういえば、いつか彼が歌っていた気がする。 彼女の大きな瞳から、小さな雫が湧き出た。 雫は涙となって、空気に蒸発していった。 彼は、それを視界の隅で見届け、けれど体は動かない。 彼の頭にも、彼女と同じ場面が浮かんでいた。 幸せそうな二人。 嬉しそうに笑いあう二人。 |
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