始めて『意思』を持つことができた彼は、最早人形ではなく人に成っていた。 『歌』はもう消えてしまったけれど、なんとなく方向だけはわかった気がする。 その勘に身を任せ、彼は歩いた。 鳥の囀りが聴こえなくなる頃、旅人は小さな河にぶつかった。 何故か輝いている、浅く細い河。 河の向うは暗闇が隠していて、何処まで続いているのかわからない白い道だけがぼんやり浮かんでいる。 彼は初めて『視る』河に恐れを抱いた。 この『水の流れ』はなんだろう。 もし此処に足を踏み入れたら、自分は流されてしまうかもしれない。 そうしたらあの『歌』に辿り着けなくなってしまう。 自分を呼んでいるようなあの『歌』に。 足を出すのを踏みとどまっていると、どこかからまた何かが聴こえてきた。 その『音』はだんだん大きくなり、やがてまた彼の頭を支配する。 …あの歌だ。 『歌』に耳を任せながら、彼は河の向うに瞳を遣った。 じっと闇の奥を見据えると、何か淡い光があるような気がした。 けれどそれは一度小さく瞬いて、そのまま霞み消えてしまった。 あそこには何があるのだろう。 それでも瞳を凝らす彼の耳で、あの『歌』もだんだん小さくなり、また止んでしまった。 彼は、河を越えることを決めた。 踏み出す足を光る水の中へ入れると、その下は空洞のようになっていた。 けれど堕ちてゆくことはない、『偽りの空洞』。 その下を覗き視ると、小さな光の粒が無造作にばら撒かれていた。 流れに呑まれることもなく、彼は空洞に瞳を奪われながら、河を渡る。 光の粒は、瞬いては消えたり、そしてまた別のところで新しい光が産まれたりしていた。 ずっと遠く下のほうに、大きな朱色の光があり、そのそばに抱かれるようにして、蒼く光るものがあった。 彼はそれをとても綺麗だと思った。 やがて彼はその『光の河』を渡り終えた。 初めての『綺麗』という感情に喜びながら。 |
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