水鳥が一羽、霧の中を飛んでいたように思います。 霧の中には他に、うっすら桃の大樹が見えたような気もします。 私はその中で、何かに照らされ伸びた影を見つけました。 懐かしい、懐かしい薫りがしました。 それは熟れた桃のように、私を夢の中へといざなったのです。 outsider 水鳥に似た鳥は、眺めていました。 霧の中を泳ぐ旅人が、見知らぬ草原へ迷い込んでしまった子羊のように、体を小さくしているのを。 親とはぐれ海峡をも越えてしまったイルカのように、ただ不思議そうに辺りへと首を巡らしているのを。 水鳥に似た鳥は、ただ眺めていました。 ボ―――― 霧の湖に船が入港すると、辺りは少しばかり騒がしくなりました。 ひそひそと話す小さな泡や、何が来たのだろうとそわそわする、薫りの元。 船はまるで何かの大樹のような形をしていました。 ここにはいろいろな形の船が来るため、水鳥は驚きません。 不意に、傍らにいた小さな水の粒が、水鳥に話しかけました。 『あれは、桃の木でしょうか』 水鳥は答えました。 『きっとそうでしょうとも。あの大樹は、いい薫りがしますから』 『そうですね。では、あの旅人はただ迷い込んだわけではなく、目的があってやってきたのでしょうか』 『ええ。あるいは、誰かに呼ばれたか・・・』 話しているうちに、船が岸辺へと腰を下ろしました。 霧の水辺はまるで木で出来たような岸辺があり、踏みつけると不思議な感触がするもので、そこまで歩こうとした旅人は、少し躓いているようでした。 一面に甘い薫りが広がり、そこにいた殆どが船にひどく興味を示しています。 『霧の草木が、目を覚ましたようですよ』 そういってそちらに目を遣る友人に少しだけ微笑みながら、水鳥はまた旅人のほうへと目を向けました。 『きっと、この桃の薫りに誘われたのでしょう。この船の持ち主は、きっとたいそう優しいお方のように思いますよ』 水鳥の言うように、船からはとても優しそうな姿が現れました。 旅人はその姿を見つけると、何とも不思議な表情をしました。 それは、まるで表すことの出来ない感情を物語っているかのように。 旅人が、何かを呟いているのが見えます。 船の持ち主はそのまま旅人の元へと歩いています。 水鳥は、この出逢いの空気がとても好きでした。 人の心は優しく寂しいもの、そう思える空気でした。 久々の客人は、今宵どんな宴を催すのでしょう。 薄桃色の霧の中、水鳥はこの二人の時を、そっと見守ることにしました。 目を細めて、哀しそうな笑みを携えながら。 |
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