桃の大樹から現れた女性は、私の知っている人のようでした。 実際には話したことも薫りを嗅いだこともなかったのですが、その人の姿は写真でよく覚えておりました。 女性はそのまま私の立つもとへ、ゆっくりと歩いてきました。 私も出迎えるために歩きましたが、ここの地面はどうにも足場がおぼつかなく、よろめいてしまいました。 例えるなら、表面の固まった沼のような・・・けれどそれはとても弾力があり、生き物の足を静めてはまたゆっくりと押し返すようなものでした。 私がよろめいていると、何時の間にやら傍らに来た女性が、私の右腕を優しく支えました。 不意に出会い、私はその瞳の奥に、何ともいえないような暖かさを感じたのです。 outsider 『おや、二人が出会ったようですよ』 小さな水の粒が言いました。 無言で頷きながら水鳥は、少しだけ羽ばたいてみせました。 その羽の動きに誘われ、いろいろなものが目を覚ましました。 薄桃の霧は、遠くの住民にまでその羽ばたきを伝え、小さな小鳥の群れが程なくしてやってきました。 空高く見えない光の元は、優しくその空気を覆いました。 大勢の住民たちは、旅人と船の持ち主の出会いを、たいそう嬉しそうに眺めておりました。 『久しぶりだね』 『あの二人は、どんな関係なのだろう』 『見てごらん、あの旅人、驚いている』 『そりゃそうさ。だってここは、僕らの国だもの』 『僕らの国は、人間には不思議なことばかりさ』 いよいよ騒がしくなった霧の中の声ですが、それは旅人には決して聞こえはしないものでした。 水鳥は、その楽しそうな声を聞きながら満足そうな顔をしています。 『ここは、まほろばだからね』 どこかで誰かが囁きました。 『人間たち風に言えば、"この世であってこの世でないどこか"…かな』 多くの水滴をわけて、丸いしゃぼん玉のような泡がやってきました。 七色に光を反射しながら、泡はふわふわと水鳥の隣へと進みました。 『見てごらん、桃の木が根を下ろしたよ』 泡の声に水鳥と水の粒がそちらに目をやると、持ち主を降ろした船は、暫しの休みを取るため、霧の岸辺へと落ち着いていました。 船は、持ち主が戻るまではここでこうしてゆっくりと眠るでしょう。 『さあ、宴の始まりだ』 七色の泡が楽しそうに言いました。 『私たちはここで、客人たちを眺めることにしよう。どうやらあの二人は、とても幸せな空気を作っているから』 そうしましょう、と水鳥も言いました。 『久々の客人なのだから、数々のもてなしをしたいところですが、どうやらあの二人には必要なさそうだ』 ええ、と頷き、水の粒も言いました。 『もし必要ならば、こっそり何かを与えればいい。まずはあの二人を見守ることにしましょう』 三人は、さあと周りを見渡し、それに伴い周りのざわめきも小さくなりました。 |
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