淋恋


 日曜日の昼下がり。
 彼女はけだるそうに、隣で眠る恋人の髪をすいた。
 白いカーテンから陽射しが透けて、何だかひどく居心地が悪い。

     もっと光を遮る色にすればいいのに。

 そうすればいつまでもまどろんでいられると、彼女はよく彼にこぼしていたが、彼は取り合わない。

 『私達まるで、陽の光に強い牧師と、吸血鬼のようだわ。』

 彼女が頭に手を乗せたままそう呟くと、彼は今目覚めたような顔で瞼を明けた。

 『吸血鬼は、誰の血を吸うのかい??』
 『誰の血も吸わないわ。』

 目覚めた彼の言葉を流して、彼女は彼の髪を撫で続ける。

 『あなたの髪の毛は綺麗。私の髪は汚いわ。』
 そう言って自分の髪の毛と見比べる彼女に、彼は微笑みながら言う。

 『僕は君のその、短いくしゃくしゃの髪が大好きだよ。』
 『うそつき。』

     この人の口は、どうしてこんなに心にもない言葉を吐くのかしら。

 自分と見比べても、彼は美人だ。
 男性にしておくのは勿体無いほど、綺麗な顔立ちをしている。
 恋が始まったきっかけなど覚えていない。
 どうしてこの綺麗な人が自分の傍にいるのか不思議で仕方ない。

     きっといつか、この人は私の心臓に杭を打つんだわ。
     その為にこうして私を油断させている、愛している振りをして。

 それでも離れない自分がとても不思議だった。
 彼の手が彼女のほほを撫でて、暫く見つめあった。
 彼女は眼光を返すように強くにらむ。

 彼は彼女のその強気な眼差しが好きなのだけど、彼女にそれは伝わらない。
 彼女は彼の恋を全く信じていない。

 けれど一緒にいる二人。

 『私のことを好きじゃないのに、あなたはどうして私と離れないの??』
 『君のことが大好きだから離れないんだよ。』

 彼の本気の言葉は彼女には届かない。

 『私はあなたのことが本当は嫌いだわ。』
 『いや、君は僕のことが好きだから、離れないんだよ。』

 彼女は自分の気持ちさえ気付けない。

 愛し愛されていることを知らない、可愛そうな彼女。
 彼はそんな彼女を愛してやまないのに信じてはもらえない。
 不思議な二人。
 幸せなのが誰なのか、可哀想なのが誰なのかは、誰にもわからない。  





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