セピア


 『こんにちは』
 そう言った貴方の、顔を初めて見たような感覚。


  貴方ハ、オ友達。私ノ、オ友達。


 『今まで、どうしていたの?』

 興味もないくせに、私に話しかけるところは、変わってないみたい。
 5年くらい会っていなかったけど、私は忘れたことはなかったわ。

 冗談半分で貴方に誘われて、冗談半分で愛を囁かれて、本気で貴方を想っていた少女がいたなんて、きっと貴方は知らないんでしょう。

 本当は、逢いたくなかったんです。
 私にも今、愛してくれる人がいるんです。
 私もちゃんと、その愛に応えてるんです。
 その人の為に、貴方にだけは逢いたくなかったんです。

 今日みたいに街ですれ違っても、貴方から話しかけてこないのなら私は素通りしたわ。
 どくどく波打つ血管を押さえつけても、破裂しそうな心臓を掴んだまま、素通りしたわ。

 『そう、働いてるんだ。恋人は、できたの?』

 私のお腹の中とは全く違う顔を鵜呑みにしないで。
 本当は早く立ち去りたいの。
 貴方に誘われなければ、こんな喫茶店に入ることもなかったのに、貴方の顔をじっと見ることもなかったのに。

 貴方のこと、顔を見たくないくらい、大好きでした。
 本当は、振り回されるのわかってて好きでした。
 毎日私があのお店に行ったの、貴方に逢いたかったからなんです。
 毎日私が、私を好きなあの人を誘ってたの、一緒に貴方も誘ってくれてたからなんです。
 貴方の甘い言葉で恍惚としてしまってから、全て私貴方の為に心を動かしてたんです。

 『今度、どこか遊びに行こうよ』

 ほら。

 またそうやって、その顔を私に向けるのね。
 恋人いるって言ったのに、貴方には関係ないのね。

 『また、仲良くなろうよ』

 イヤ。

 なりたくない、私ばかり好きなんて不公平だもの。
 私を愛してくれる人といたいんだもの。

 でも、きっと貴方の知らなかった言葉を言うために、私は貴方とまた逢うでしょう。

 胸の中でもやもやしていた気持ち。
   5年経った今でも、褪せない気持ち。
 一番伝えたかった言葉。

 貴方は何て思うかしら。
 また、『ありがとう』とでも言うつもりかしら。
 それでもいいわ。

 私の中の、もう必要ないのに褪せない心を、ただ霞めてしまいたいから。

 伝えてセピアになる恋も、きっともう最後だから。  





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