木枠に縁取られた丸い夜空には細い細い月。ピンクのカフェカーテンに乗せたまま瞳を休ませ、右手の親指だけ動かした。 左手には小さなメモ。 もう本当は頭の中に刻み込まれている番号が書かれている、メモ。 あたしはどうしてこうなんだろう。 寂しいときに求めるのは、いつだってあの人じゃなく、貴方だ。 あたしの全てを許してくれそうなあの人に、あたしは全てを見せられない。 弱い自分を見せられない、いつだって完璧なあたしを見せていたくて、だからあたしの涙はあの人が見たことがない。 Trrr… Trrr… 紺色の空に浮かぶ黄色い船が、貴方を連れてくる。 忘れたらどれだけ楽になるのだろう。あの人があたしに笑いかけてくれるたび、この胸に埋め込まれる針の山はあたしの罪悪感。失くしてはいけないもの。 そういえば、あの人ともこの一ヶ月会っていない。 あの人は忙しい人だから、あたしは我侭を言わない良い子でいるんだ。 あの人の望むとおりの恋人像を演じる、それはあたしを愛してくれるあの人のために。 だけど弱いあたしは寂しさをどうやって埋めたらいいのかわからない。 あの月は手品のように毎晩姿を変えてあたしを楽しませてくれるけれど、決してここには来てくれないから。 がちゃ。 見つめる船が黒い波に埋もれた代わりに、あたしを抱きしめる腕がやってくる。 貴方には、帰りを待つ人がいるはずだし、あたしにも信じてくれている人がいる。 それでもこの手は求めてしまう、貴方が応じてくれるから、あたしは忘れられない。我慢することができない。 この体に響く、少し低い声をあたしは我慢できない。 外国産のタバコの匂いと、少し骨ばった頬に埋もれることを、あたしは我慢できない。 昔は、この男を手に入れるために何でもやった。 この男を自分だけのものにするために、少しのプライドも手放した。 そして貴方はあたしのものになった、多分少しの間だけ。 幼いあたしは裏切りが許せず、二人は会わないようになった、思えば遠い過去。 それでも、忘れられなかった。 あの人に出会って、全ての欲を満たされていたはずなのに、どこかで欲していた。 蜜月の下で最初に電話をかけたのはあたし。 貴方は変わっていなかった、だからあたしの求めに応じた。 弓張り月があたしたちを照らす。 体は久しぶりの体温と重みで、それだけで満たされる。 黄色い星は空の色を二人に映す。 蒼く染まった体で、濃い蜜のときを過ごす。 貴方は何も考えていない共犯者。 見つめるだけで何も言わない弓張り月。 あたしの欲を満たすだけの、蜜月。 何度もやめようとして、何度も消そうとして、それでも心に居座る、貴方は月。 夜になると現れる、貴方は月。 裸のあたしを包み込む光を放つ、貴方は月。 月はきっといつまでもあたしを照らす。 全てが壊れてしまうまで。 |
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