最後の夜


 何に後悔すればいいのかもわからず、ただ体を重ねていた。
 愛し合っていることは真実。
 けれど、道が離れていることも真実。
 こんなに、矛盾しているのに、それでも終わりは近づいている。
 
 …朝だね。
 彼女が呟いた。
 …うん。
 彼が答えた。

 腫らした彼女の目は、もう恋人を見ていない。
 日の光に細めた彼の目も、恋人を映してはいない。


 ホテルを出ると、二人は夕べと同じ道を歩いた。
 もう誰もいない砂浜を、静かに歩いた。
 …少しの距離をあけて。

 太陽はもう半分ほど顔を出し、その光を海に反射させ輝かせている。

 そして、彼がゆっくりと足を止めた。
 彼女もそれに従う。

      …じゃあね。

 自然についた言葉。
 二人で、うなずいて、少し微笑んだ。
 ぎこちなく、優しい顔で。


 多分、また出会える予感があった。
 また、恋に落ちる予感はあった。
 だから自然に、二人は別の道へ進んだ。

 その道の先が、再びつながっていることを、昨日確信できたから。

     …戻れないなら、進めばいい。

 昨日の夜、我武者羅に愛を注ぎあったのは、確かに足掻きだった。
 けれど、現実二人はそのおかげで迷いがなかった。
 心の奥のどこかで、互いの愛を感じることが出来たから。


 恋人たちの道理。
 恋人たちの矛盾。


 二人の瞳はもう別の景色を映していたけれど、心の中で描く未来は一緒だった。

 成長した二人が、再び今度は別の場所で出会う風景。


      …また会いましょう。


 彼女の声が、風に乗って遠くで響いた。

 太陽はすっかり顔を出していた。




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