彼の手が彼女のほほを包み、彼女の両手がそれを覆う。 外から見れば、多分深く愛し合っている二人。 自分達もそれを感じてやまない。 けれど、二つの道が離れる方向へ、誰かに引かれるように進んでいる。 戻りたい。 二人ともそう願っている。 けれど足は自然に動いてしまう。 想いをこらえきれず、強く抱き合った。 涙をこらえきれず、彼女は声を漏らした。 愛しさに身を委ねても、もう修正が利かないことは予感してる。 だけど抑えられず、二人は深く口づけた。 長い時間、二人は口づけあった。 お互いを求め合っていた。 壊れてしまうほど。 不安をかき消すように。 顔を、骨が砕けそうなほど強く撫でながら。 そして時間は過ぎていった。 何も変えられず。 何も言い出せず。 ただ、唇で愛を伝え合って。 …もう戻れない…。 予感は確信となった。 多分、一日のうちに現実になっているだろう。 そしてその現実は、二人を潰すほどに重くのしかかるのだろう。 けれど、二人は実感していた。 そこまで歩いてしまっていた。 多分最初は、何てことのない、些細なすれ違いだったのだろう。 夜はもうすぐ終わろうとしていた。 海の奥で、残酷な太陽が顔を覗かせようとしている。 抱き合ったまま時間は過ぎていた。 時間が止まることを、強く願っていたけれど、願えば願うほど、世界は加速していた。 |
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