最後の夜


 二人の視線は出会い、しばらくそのままで時が過ぎた。
 彼の手が彼女のほほを包み、彼女の両手がそれを覆う。
 外から見れば、多分深く愛し合っている二人。
 自分達もそれを感じてやまない。
 けれど、二つの道が離れる方向へ、誰かに引かれるように進んでいる。


      戻りたい。


 二人ともそう願っている。

 けれど足は自然に動いてしまう。

 想いをこらえきれず、強く抱き合った。
 涙をこらえきれず、彼女は声を漏らした。
 愛しさに身を委ねても、もう修正が利かないことは予感してる。

 だけど抑えられず、二人は深く口づけた。


 長い時間、二人は口づけあった。
 お互いを求め合っていた。


 壊れてしまうほど。
 不安をかき消すように。
 顔を、骨が砕けそうなほど強く撫でながら。

 そして時間は過ぎていった。
 何も変えられず。
 何も言い出せず。
 ただ、唇で愛を伝え合って。

 
      …もう戻れない…。


 予感は確信となった。
 多分、一日のうちに現実になっているだろう。
 そしてその現実は、二人を潰すほどに重くのしかかるのだろう。
 けれど、二人は実感していた。
 そこまで歩いてしまっていた。
 多分最初は、何てことのない、些細なすれ違いだったのだろう。

 夜はもうすぐ終わろうとしていた。
 海の奥で、残酷な太陽が顔を覗かせようとしている。
 抱き合ったまま時間は過ぎていた。
 時間が止まることを、強く願っていたけれど、願えば願うほど、世界は加速していた。





BACK   NEXT






TOP
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送